日本漫画至上最高傑作のひとつ『ゴルゴ13』の生みの親である、さいとう・たかを先生の名言を集めました。プロインタビュアーとして知られる吉田 豪氏の名著『男気万字固め』より、さいとう先生のインタビューを抜粋。
貸し漫画作家としてのデビューから、反・手塚の旗頭として漫画の表現を押し上げた劇画の誕生秘話など、反骨の漫画家としてのさいとう先生の熱い言葉は我々の心を突き刺す! 刮目して見よ!
さいとう・たかを の名言1
「5年生のときに、まさに窮鼠猫を噛むでヤケクソになってガキ大将にかかっていったら、それがなんかコロッと勝ってしまって。それからは、もう猿山同然でね」
さいとう先生が子供時代を語った名言。現在は誰でもびびる強面の先生であるが、意外にも子供の頃はいじめられっ子であった。しかし天性のケンカセンスでガキ大将を打ち負かすと、さいとう先生がガキ大将の座に君臨。子供の頃からさすがなんだな。
さいとう・たかを の名言2
「中学校入った頃には胸囲1メートルありましたから。それで背が低かったんですよ。もうカニみたいな体型ですよ(笑)」
さいとう先生の自虐的名言。背が低いのに胸囲が1メートルもあったら確かにカニというかダンボールというか、そんな体型というのはうなずけるが・・・・・・。こういった自虐ネタをサラッと言ってのけるあたりが、さいとう先生の度量の大きさの一端を物語っている。
さいとう・たかを の名言3
「知らない間に、どんどん部下が増えてはいきましたけどね。幹部連中が鉛でバッジ作って、それを全然知らんヤツが持ってたりして」
さいとう先生が中学時代を語った名言。『男気万字固め』の著者・吉田豪から「完全なヤクザ組織」とつっ込まれてしまうが、中学生とは思えない悪童だった模様。この頃さいとう先生は、匍匐前進で進駐軍の倉庫から絵を描くための紙を盗み出したという逸話も残っている。
さいとう・たかを の名言4
「外でどうしようもない悪ガキで暴れまくっても、帰ってきたら少女が涙するような詩を書いたりして。すごい二重人格でね、そういう意味では(笑)」
さいとう先生が、さいとう先生自身の二面性を語った名言。今も昔も、普通は文科系なら文科系、体育会系なら体育会系の思考と才能しか持ち合わせないものだが、さいとう先生の場合はどちらの思考も才能も持ち合わせており、昔から絵だけはうまいと評判であったそう。不思議な人・・・・・・。
さいとう・たかを の名言5
「私は理屈っぽかったから必ず教室の後ろで窓開けてタバコ吸ってました。『みんなに迷惑かけたくない』って」
さいとう先生が中学時代を語った名言中の名言。現代、未成年の非行がマスコミで度々報道されたり、危機だと扇動されたりしているが、さいとう先生ほどの非行少年が一体どれだけいるだろうか!? タバコは吸うが、クラスメイトにはタバコの煙で迷惑をかけないという先生独特の正義感が笑える。
さいとう・たかを の名言6
「職員室に乗り込んで行って、校長に『どういうことだ?』って言ってね。『悪いことをして体罰を加えられるのは仕方ない。しかし、わからないからって体罰加えられるとはどういうことだ? わからないのを教えるのが教師の仕事だろう!』って言って。結局その教師に謝らせました。そのちょっと足りなかった男がね、自分の息子に私の名前つけてるんですよ(笑)」
さいとう先生は悪ガキではあったが、誰よりも正義感に篤く、勉強がわからないことを理由に体罰を加えた教師に対し、さいとう先生は当事者ではないのにも関わらず生徒を代表して職員室に乗り込んだのであった。こういう男だったからこそ、慕う仲間が多く集まったのだと納得。かっこいいエピソードだ。
さいとう・たかを の名言7
「正義なんて人間のご都合主義で生まれるでしょ? 人間に都合が良かったら正義と呼ぶし、悪かったら悪と呼ぶ。本質的にはそんなもんないわけ。正義とか悪とかいうものは、みんなで決めたただのルールですから」
さいとう先生の基本的な考えを語った名言。この精神は、先生の代表的名作漫画『ゴルゴ13』にも引き継がれており、ゴルゴ13ことデューク東郷は、どんなイデオロギーにも屈せず、己のルールにのみ忠実に行動をしていく。アナーキーっちゃあアナーキーなのだけれど。
さいとう・たかを の名言8
「『お前はちゃんとやって一生懸命頑張る人間になるか、おかしくなるか。極端になるだろう』『このままだったら、お前の住めるところは刑務所しかない』とか言われましたけど」
さいとう先生が唯一恩師と慕った中学生時代の担任・東郷先生の名言。東郷先生は、テストを白紙で提出するさいとう先生に対し、「君の意思だからかまわないが、名前だけは書きなさい」と注意。さいとう先生も「あの先生に出会わなかったら、どうなってたことか」と述懐するほどの恩師なのだ。
さいとう・たかを の名言9
「だからね、アゴの下でも剃ってるときにね、『そいつ気にいらんで横にバっと引っ張りたくなったらどうしよう?』と、そういう恐怖感がいつも常に自分の中にあったんです」
さいとう先生が漫画家を志すきっかけを語った名言。さいとう先生は中学卒業してから実家の床屋を手伝っていたのだが、自身に流れる激しい気性を自覚していたため、仕事中、いつ狂気が噴出してしまうかわからず、いつも恐怖感でいっぱいであったという。漫画家になって正解なのだった。
さいとう・たかを の名言10
「その頃私がよく言ってたんですけど、『いまのやり方はこれは宝石を探してるんだ。この世界は、宝石探すような世界じゃないんだ。ジャリを集めて宝石を作れるんだ』と」
さいとう先生が漫画家になってからずっと唱え続けてきた漫画製作方法についての名言。ドラマと絵を作る才能は別であり、もっといえば絵においても人を描く才能と機械を描く才能は別。それぞれに優れた才能を持ち寄りひとつの漫画を製作するべきだと、1950年代から唱え続けてきたのだが、さいとう先生の言葉を真に受けなかった漫画仲間は、誰一人残っていないという。
さいとう・たかを の名言11
「手塚先生の描き方はこの世界では中途半端だ、と。たとえば、指の関節がどこにあるかわからんような手でノブ持ったってリアル感は出てこない。私はリアルなドラマを書きたかったですからね。だからあの絵には限界がある。(中略)どこまでリアルな絵を描けばいいか研究しないと。ああいうディズニー調の絵ではダメだということを盛んに言ったわけです」
さいとう先生が劇画を生み出した過程を語った名言。さいとう先生は、漫画の第一人者である手塚治虫先生の絵にアンチテーゼを唱え、よりリアルなドラマを再現するために、リアリティー溢れる劇画を生み出したのだった。後に手塚先生も、劇画の手法を取り入れるようになる。
さいとう・たかを の名言12
「早すぎるっちゅうのはよくないですね。我々の作品は半歩前に出ないと」
さいとう先生が自身の作品を振り返った名言。さいとう先生は『デビルキング』や『サバイバル』など自信作として世に送り出しているが、発表当時は読者の多くはピンと来ず、まったくウケなかったようだ。しかし、時代は巡り、現代では『サバイバル』は名作と評価を受け、ロングセラーとなっている。
さいとう・たかを の名言13
「たとえばイランへ行ったとき、『あの辺のオールドタウンには入らないでくれ』って言われたんですよ。そんなもん、表ばっかり見たって面白いことないし。入って行ったら逆にみんなサーッと逃げましたよ」
さいとう先生の取材スタイルを語った名言。『ゴルゴ13』で描かれる街や家屋などはかなり現実に則して描かれており、それが荒唐無稽なゴルゴ13の物語にリアリティーを与えているんだそう。それにしてもスラム街の人間が逃げていくなんて・・・・・・きっと凄い迫力だったんだろうなあ。
さいとう・たかを の名言14
「後で聞いた話ですけど、『東の梶原一騎、西のさいとう・たかを』って言われてたんだって(笑)。ビックリしましたよ。あんな強い人と一緒にしないでくれって(笑)」
「東の梶原一騎、西のさいとう・たかを」とはよく言ったもので、漫画界強面ビッグ2ということ。梶原一騎はさいとう先生をかなり意識していたようで、パーティー会場で会うと、さいとう先生とは挨拶はせず、しかしさいとう先生の周囲をグルグルと回って威嚇していたんだそう。さいとう先生もかっこいいが、梶原一騎もやっぱりかっこいいんだなあ。
さいとう・たかを の名言15
「我々の持っている一番の強みは、やっぱりスペクタクルをいかに見せるかだと思います。それが、いまの若手にいなくなってるんですよ。身の回りのことを描く作家ばっかりで、私は四畳半物と呼んでますけどね(笑)」
身の回りのストーリーばかり描く現在の漫画家の風潮を嘆くさいとう先生の名言。さいとう先生は漫画はコミックとしての面白さを追求するべきで、テレビドラマに採用されるような漫画は、漫画の持つ強みを活かし切れていないと主張する。確かに、さいとう先生の漫画はテレビドラマにするのは不可能な作品ばかりで、徹底しているのだ。
さいとう・たかを の名言16
「ああいうページが長い連載をやっていると、もう新しい物がまるでできないわけですね。でも、私は気が弱いから新しい物やりたいと言えないんですよ」
漫画家として常に新しいことにチャレンジしたいと思っている反面、『ゴルゴ13』の人気が衰えず、なかなかチャレンジする時間を作れないという、さいとう先生がジレンマを語った名言。機会があれば、『ドラえもん』や『アンパンマン』などの児童物に挑戦したいんだそう。意外!
さいとう・たかを の名言17
「私は『ゴルゴ』の『・・・・・・』に万感の思いを込めているつもりです(笑)。あえて叫ぶのは邪道だと思いますね」
さいとう先生は、意外にも自身の漫画家人生を我慢の連続であったと振り返り、あの名作『ゴルゴ13』ですら、さいとう先生の意思で始めたわけではなかったと告白。しかし、ゴルゴ13にセリフを与えず、あえて「・・・・・・」と表記することで、さいとう先生の感情をゴルゴに重ね、読者に感じてもらうための演出だったのだ。さいとう・たかを先生の濃密な言葉が詰まった『男気万字固め』は男だったら必読の書籍。さいとう・たかをの名言1、完。
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