零式戦闘機の名言

零式戦闘機

昭和が生んだ偉大なる作家・吉村昭氏の代表的長編小説のひとつ。太平洋戦争が開戦すると、三菱重工業が製作した零式艦上戦闘機(通称:ゼロ戦)の戦闘能力は凄まじく、アメリカやイギリスの飛行機乗りたちに戦慄を与えた。大戦初期はまさに無敵状態であり、日本軍の連戦連勝に大きな貢献を果たした。

この『零式戦闘機』ではゼロ戦の秘密裡の誕生から、幾多の輝かしい戦歴、敗亡の悲運を、設計者・技師・空の勇士の奮闘と哀歓のうちに綴っている、吉村昭氏の小説を代表する大傑作である。当然、多くの名言の宝庫であるのだ。

名言1・・・零式戦闘機文庫版11ページ

零式戦闘機イメージ「この新しい試作機は、三菱重工業株式会社の航空機部門の長い歳月にわたってつみ重ねられた研究の結晶とも言えるものであった。そしてそれは、日本の航空機製作の歴史の浅さを確実に克服したものと言ってもよかった」

ゼロ戦は三菱重工業が製作。従来のものよりも大型で、胴体がほっそりと美しい線を描き、翼の厚さもずいぶんと薄くなっていた。普段から戦闘機を見慣れている整備師たちも、ゼロ戦を始めて目にした時はまるで新しい生き物を見るかのような驚きに溢れていたという。

名言2・・・零式戦闘機文庫版16ページ

零式戦闘機イメージ「各社に対して外国機の安易な模倣を禁じ、将来の進歩のために自社設計をおこなうべきだということを強調した」

上海事変により戦闘機の重要性を痛感した海軍では、航空機メーカーの三菱、中島、愛知、河西に対し、機体からエンジンまで完全日本オリジナルの戦闘機の製作を指示。それまでの日本の航空機界は外国機の模倣でしかなく、世界的に見て航空機の技術水準は低かったのだ。

名言3・・・零式戦闘機文庫版17ページ

零式戦闘機イメージ「かれの設計技術は、やがて独創性にみちた設計となって紙上に展開されていった。最も顕著なあらわれは、翼を無支柱単葉型としたことであった」

三菱は設計主務者に若手技師・堀越二郎を任命。堀越はキャリアは浅かったものの、航空学に対する研究熱心な態度とわずかな誤りも許さぬ性格が、社内で高く評価されていた。堀越の志向は先見性に満ちており、主流の複葉型や有支柱パラソル単葉型に限界が訪れることを見越し、いち早く翼を無支柱単葉型としたのだった。

名言4・・・零式戦闘機文庫版25ページ

零式戦闘機イメージ「九六式艦上戦闘機は、九六式陸上攻撃機とともに日本航空自立の悲願を達成しただけではなく、機体設計技術を一躍世界的水準にまでたかめさせた大きな意義をもつものであった」

堀越二郎が設計責任者として開発した試作機は、当時の世界最高速度時速410kmを凌駕する450kmを記録。しかも、スピードだけではなく、従来の戦闘機とは比較にならないほどの高性能をしめし、海軍に正式採用され九六式艦上戦闘機となった。

名言5・・・零式戦闘機文庫版53ページ

零式戦闘機イメージ「海軍の誇る第一線機九六式艦上戦闘機の設計主務者である堀越の存在は、かれらにとっても軽視することはできない」

九六式艦上戦闘機を上回る性能を持つ戦闘機の開発依頼が三菱に届けられただのが、それは当時の技術水準をあまりにも飛び越えすぎた物であり、とても実現できるとは思えない代物であった。堀越二郎は、無茶すぎると海軍に要求の変更を意見し、海軍もそれに応えようとはしたのだが、結局、結論は出ず、堀越は海軍の要求を飲むしかなかった。

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名言6・・・零式戦闘機文庫版96ページ

零式戦闘機イメージ「堀越たちの顔には、喜びの色があふれた。・・・・・・十二試艦上戦闘機は、過酷な海軍側の要求にうちかって、遂に実用機としての形をととのえることができたのだ」

海軍からの新たな戦闘機への要求はあまりに過酷であり、実現不可能に思われたが、堀越二郎を始めとした三菱の技師たちにより、海軍からの要求をクリアー。テストパイロットからの評価も極めて高く、十二試艦上戦闘機が九六式艦上戦闘機を上回る性能を確実に保有していることが確認されたのだった。

名言7・・・零式戦闘機文庫版100ページ

零式戦闘機イメージ「世界一流機の最高速度は、九六式艦上戦闘機にまさることもなく、むろ十二試艦上戦闘機にくらべるべくもなかった」

十二試艦上戦闘機の性能は当時の世界水準の遥か上をいっており、さらに、三菱エンジンから中島飛行機のエンジン「栄一二型」に変更したことで、海軍からの要望時速500kmを大幅に上回る533km超を記録したのだった。

名言8・・・零式戦闘機文庫版132ページ

零式戦闘機イメージ「進藤は、空戦の余りのすさまじさに呆れた。そして、その空戦が、自分の隊の圧倒的な勝利のうちに終わったことを知った」

十二試艦上戦闘機が海軍に正式採用され「零式戦闘機」の名前をもらった後の初の実戦。場所は中国・重慶、相手はソ連製戦闘機イ15とイ16の27機、対する進藤三郎大尉率いるゼロ戦の攻撃隊は13機。しかし、数の差など問題にならず、わずか10分あまりで27機すべて撃墜、味方の損害はゼロという完封勝利を飾った。

名言9・・・零式戦闘機文庫版190ページ

零式戦闘機イメージ「長い距離を飛行しながら、しかもアメリカ戦闘機との空戦で圧倒的な勝利をしめした零式戦闘機に対する信頼感はさらに増した。それは、航空界の後進国といわれていた日本に生まれた零式戦闘機が、アメリカ航空界に大打撃をあたえた日でもあった」

日中戦争により、零式戦闘機はソ連製戦闘機のイ15やイ16よりも圧倒的戦闘力が実証されていたが、その優位はアメリカ製戦闘機のカーチスP40に対しても揺るがず、太平洋戦争初期の日本軍の快進撃の立役者となった。堀越二郎、恐るべし!

名言10・・・零式戦闘機文庫版205ページ

零式戦闘機イメージ「かれらにとって、零式戦闘機は、すでに戦闘機ではなく、神秘性をおびた奇怪な飛翔物だった」

アメリカやイギリスの戦闘機乗りたちは、航空機工業後進国であったはずの日本を完全になめくさっており、自分たちが日本の戦闘機に負けるなど露ほどにも思っていなかった。しかし、現実は非常であり、零式戦闘機は米英のプライドを粉々にまで打ち砕いてしまった。

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名言11・・・零式戦闘機文庫版226ページ

零式戦闘機イメージ「たちまち零式戦闘機の神秘性は、アメリカ空軍関係者の手で徹底的にひきはがされていった」

アメリカ空軍勢力に対して、圧倒的優位を示してきた零式戦闘機であったが、アリューシャン列島攻略作戦において、ほぼ完全な状態の不時着機がアメリカ空軍に接収されてしまう。そこで零式戦闘機の性能を徹底的に研究され、零式戦闘機の全貌が完全にあばかれてしまった。

名言12・・・零式戦闘機文庫版231ページ

零式戦闘機イメージ「開戦後わずか七ヵ月で、日本航空兵力とアメリカ航空兵力との間には、戦慄するような物量の差が、決定的なものとなってあらわれてきていた」

太平洋戦争開戦緒戦こそ日本軍の快進撃が続いたが、ミッドウェイ海戦の大敗により、日本海軍は建て直しだけで精一杯の状況に追い込まる。しかしアメリカは、開戦と同時に大増産計画をうちたて、ミッドウェイ海戦が終わった頃には、量において日本軍をはるかに凌駕した。

名言13・・・零式戦闘機文庫版234ページ

零式戦闘機イメージ「ガダルカナル---そのソロモン諸島の小島を中心に展開された日米両軍の激突は、戦争そのものの不気味な姿を露呈させたものであった。戦争という巨大な生き物が、おびたただしい人命、艦船、航空機その他多量の資材を貪婪に果てしなくのみつづけたのだ」

著者・吉村昭氏は、ゼロ戦を賞賛するために『零式戦闘機』を記したのではなく、戦争へと駆り立てられる人間の狂気、そして戦闘での悲惨な実態を、ゼロ戦の栄枯盛衰を象徴にして描いたに違いない、そう読者に強烈に思わせる記述がこれ。ガダルカナル島での戦闘は日米ともに多くの損害を出したが、とりわけ日本軍の損害は甚大であり、多くの餓死者を出してしまった。

名言14・・・零式戦闘機文庫版265ページ

零式戦闘機イメージ「牛では、各務原まで二十四時間を要したのに、その馬では半分の十二時間しか必要としない」

最新鋭の兵器である戦闘機であるが、工場から各務原飛行場までの輸送は、なんと牛車が使用されていた! 輸送路は悪路で、牛車以外の輸送手段だと機に傷を付けてしまうためなのだが、それにしても牛車って・・・・・・。昭和19年になってようやく、ペルシュロン系の馬を輸送手段に用い、牛車の二倍の速度で輸送できるようになった。牛車って・・・・・・。

名言15・・・零式戦闘機文庫版267ページ

零式戦闘機イメージ「零式戦闘機も、撃墜される率が多くなっていた。常に周囲をとりまくのは、F6Fを主力とした大量の戦闘機であり、零式戦闘機は周囲からすさまじい機銃弾を浴びせかけられ機体を容赦なくひきさかれる。それは、悲惨な死闘であった」

アメリカ空軍は、遂にゼロ戦に対抗しうる戦闘機F6Fを投入したが、ゼロ戦と一対一では分が悪い。しかしそこはアメリカ、物量作戦でゼロ戦に対してニ対一で挑み、勝利を収めるようになった。男なら一対一でしょうが!と言いたいけどねえ・・・・・・。

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名言16・・・零式戦闘機文庫版277ページ

零式戦闘機イメージ「太平洋は、祖国の危機を救おうとねがう若者たちの壮大な自殺場と化した。かれらの死は、戦争指導者たちの無能さの犠牲とされたものであると同時に、戦争という巨大な怪物の不気味な口に痛ましく呑みこまれていったものなのだ」

敗戦濃厚の戦局を打開するために、山本五十六司令長官に次ぐ航空主兵論者であった大西瀧治郎中将の発案により、ゼロ戦による自爆攻撃である特別攻撃隊が組織され、多くの若者の命が太平洋に散っていった。吉村氏は、最強戦闘機の名を欲しいままにしたゼロ戦の成れの果てを嘆き、無謀な戦争に導いた指導者たちを辛辣に批判したのだった。

名言17・・・零式戦闘機文庫版あとがき

零式戦闘機イメージ「中国大陸での戦争から太平洋戦争の終結まで代表的兵器の一つであった零式戦闘機の誕生からその末路までの経過をたどることは、日本の行った戦争の姿そのものをたどることになるという確信が私に筆をとらせた」

吉村昭氏の歴史小説は、ノンフィクション小説とも言われ、徹底した取材と史料による緻密な描写がふんだんに盛り込まれている。氏の小説は、まるで作家が現地で体験したことを記しているのではないかと錯覚するのほどの、迫力とリアリティー、そして戦争への悔恨に溢れているのだ。この『零式戦闘機』の抜粋に興味を持っていただけたのなら、ぜひ吉村昭氏の小説をご一読していただきたい。完。

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